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軌道上AI処理を支える高密度電源アーキテクチャ

Vicorは、長期運用を想定した小型衛星向けに、SpacechipsのAI1トランスポンダへ小型・低電圧・大電流の電源供給技術を提供している。

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軌道上AI処理を支える高密度電源アーキテクチャ

小型衛星には、地球観測、通信、防衛関連用途を中心に、5~10年のミッション期間にわたって高度なオンボードデータ処理を実行することが求められるようになっている。こうした自律的な軌道上演算への移行を背景に、SpacechipsはAI1トランスポンダ基板にVicorの電源モジュールを採用し、宇宙環境特有の電気的・熱的・信頼性要件に対応する電源アーキテクチャを構築した。

オンボードAIが電源ネットワークに与える新たな制約
最新の小型衛星では、超微細プロセスのFPGAやASICを用いて限られた筐体内で計算密度を高める設計が進んでいる。これらの高性能プロセッサは、低電圧かつ大電流の厳密に制御された電源を必要とする一方、放射線環境や限られた放熱条件下で動作しなければならない。そのため、サイズや質量、効率を犠牲にせずに電源ネットワークを設計することが、New Spaceプラットフォームにおける重要なシステム課題となっている。

Spacechipsはこの課題に対応するため、ACAP(Adaptive Compute Acceleration Platform)AIアクセラレータを搭載したコンパクトなオンボードプロセッサカード「AI1トランスポンダ」を開発した。同トランスポンダは最大133TOPSの演算性能を提供し、軌道上でのリアルタイムかつ自律的な処理を可能にする。これにより、低軌道(LEO)において約10分ごとに限られる地上局との可視通信時間への依存を低減し、通信遅延の影響を抑えることができる。

通信断時間を補完する自律的判断能力
オンボードAI処理により、衛星は地上との通信が不可能な状況でも取得データに基づいて判断を下すことができる。具体的には、衝突リスク低減のための宇宙デブリ追跡、ミッションクリティカルな衛星システムの健全性監視、異常気象パターンの検出、農業用途に重要な降雨データの解析などが挙げられる。さらに、防衛・安全保障分野では、情報収集、監視、偵察、信号情報(SIGINT)といった用途にも適用される。

低電圧・大電流負荷に対応するファクタライズド電源
宇宙空間でAIアクセラレータを安定動作させるには、高効率なDC-DC変換だけでなく、質量・体積・信頼性を考慮した電源設計が不可欠である。SpacechipsはAI1トランスポンダにVicorのファクタライズド電源アーキテクチャ(FPA)を統合し、これらの要件に対応した。

FPAでは、電源変換を機能的に分離されたモジュールとして構成する。放射線耐性を備えたBus Converter Module(BCM)が絶縁と28Vへの降圧を行い、Pre-Regulator Module(PRM)が電圧制御を担当する。さらに、Voltage Translation Module(VTM)または電流倍率器と組み合わせることで、28V DCを0.8Vといったプロセッサ向け電圧へ変換する。この構成により、電流経路が短縮され、分配損失が低減されるとともに、負荷点での大電流供給が可能となる。

長期ミッションを支える冗長性と信頼性
宇宙用途では、複数年にわたる運用を前提とした耐障害性の高い電源アーキテクチャが求められる。Vicorの電源モジュールはデュアル電力変換ユニットを備えており、いずれか一方が単独で100%の負荷を担うことが可能である。これにより、部分的な故障が発生してもミッション継続性を確保できる。

この電源サブシステムにより、AI1トランスポンダは通信トラフィックの状況に応じて、RF周波数帯、チャネル割り当て、変調方式、通信規格を自律的に切り替えながら、高性能演算部への安定した電力供給を維持できる。

New Space計算基盤を支える高密度電源
高い電力密度と小型化を両立した電源設計は、サイズ・質量の削減とレイアウト自由度の向上に寄与し、小型衛星にとって重要な設計要素となる。完成したAI1プロセッサ基板は、放射線耐性、耐環境性、小型化を兼ね備えており、高性能コンピューティングと宇宙対応電源技術の融合を象徴するものといえる。

SpacechipsとVicorの協業は、自律型AI衛星システムを実現する上で、高度な電源アーキテクチャが基盤技術として重要性を増していることを示している。

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