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高速な波長走査型OCTを可能にする高度なデータ収集

光干渉断層撮影(OCT)は、現代医療の画像診断において不可欠なツールとなっています。なかでも波長走査型OCT(SS-OCT)は、その優れた撮影速度・測定深度・感度から、主要な撮影方法となりつつあります。このSS-OCTは、波長掃引レーザー光源を用いることで、高解像度かつリアルタイムに生体組織の微細構造の可視化を実現し、眼や心臓、皮膚、歯などの画像診断用途で特に活躍しています。

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高速な波長走査型OCTを可能にする高度なデータ収集

図1 波長走査型OCTの高い性能は、幅広い用途にメリットをもたらしています

その装置の中核をなす重要な要素がデータ収集システムです。光干渉信号を正確に捕捉する役目を担うデジタイザが、画質や測定深度、走査速度を直接左右します。SS-OCTシステムでは、走査速度や軸方向解像度の向上、さらには測定深度の拡大が追求され続けており、サンプリングレートや帯域幅、ダイナミックレンジ、リアルタイム処理など、デジタイザに求められる要求はますます厳しくなっています。

ここでは、最先端のSS-OCTシステムを実現するうえでデジタイザが果たす重要な役割を探るとともに、次世代のイメージング・ソリューション構築に取り組むSS-OCT装置の開発者が求める高い性能や柔軟性、高度な機能について、ADQ32やADQ35をはじめとするTeledyneのデジタイザなら、その要望になぜ応えられるのかを解説します。

SS-OCTとSD-OCTの比較
波長走査型OCT(SS-OCT)は、スペクトル領域OCT(SD-OCT)に比べて技術的に大きな優位性を備えています。SS-OCTは、高速な波長掃引レーザー光源と1つの光検出器からなる設計であるため、より高速な走査速度とより深い生体組織への透過が実現し、深さにともなう感度の低下も大幅に抑えられます。

また、動作波長が長い(約1050 nm)ことから、生体組織での散乱を用いたイメージング能力が向上し、眼の脈絡膜などの深部の構造を鮮明に可視化できます。さらに、SS-OCTでは、高いS/N比性能とより安定した位相情報も得られるため、高密度ボリュメトリック撮影やOCT血管造影において特に優れた能力を発揮します。


高速な波長走査型OCTを可能にする高度なデータ収集
表1 SD-OCTと比べたSS-OCTの利点

かつてはSS-OCTシステムで最も高価な部品は波長掃引レーザーでした。しかし、現在では低コストに量産できる新しい半導体ベースの波長可変レーザー(MEMS VCSELなど)の開発が進んでいるため、SS-OCT装置がより手頃な価格になって訴求力も増しています。

SS-OCTのデジタイザに求められる要件
システム全体のパフォーマンスは、使うデジタイザの品質と能力によって大きな制約を受けます。SS-OCTの開発者が求めているのは、単に高速なデータ収集だけではありません。GHzもの速度で干渉縞を正確に捕捉するために数GS/sのサンプリングレート、低いジッタ、大きなアナログ帯域幅、そして高いENOB性能を兼ね備えたデジタイザを必要としています。そのうえ、リアルタイムの画像処理パイプラインをサポートするには、決定論的なタイミング、リアルタイムでのk空間線形化、さらには高スループットなストリーミング機能も必要になります。つまり、システムの性能は、正確なタイミングのデータを極めて高速かつ完全に取得できるデジタイザの能力によって決まるのです。

一般的にSS-OCTデジタイザの開発に求められる主な要件として、以下のようなものが挙げられます:

  • 1~5 GSPSのサンプリングレートにより、高速に波長掃引される干渉信号を正確に捕捉できること。測定深度は、デジタイザのサンプリングレートとレーザーのコヒーレンス長に比例するため、レーザー光源の波長掃引速度やコヒーレンス長、kクロック周波数の向上にともない、より高速なデジタイザ技術に対するニーズが高まっています。
  • 広いアナログ帯域幅(1~2 GHz)で高周波の干渉信号を歪みなく処理し、1~2 GHzのkクロック周波数に対応できること。
  • 高いダイナミックレンジで低ノイズに深い層の生体組織からの微弱な反射も忠実に捉えられること。さらに、最大5 GS/sのサンプリングレートで12ビットの垂直分解能も必要。
  • 高いAスキャン速度でも、ピアツーピア・ストリーミングやFPGAによる前処理などのリアルタイム・データ処理でボトルネックが生じないようにすること。また、毎秒ギガバイト単位の速度でCPUあるいはGPUへのリアルタイム・ストリーミングも求められる。
  • 低遅延に処理して、即座の画像再構成やフィードバックを可能にすること。

TeledyneのADQ3シリーズのデジタイザは、これらの要件を満たすのはもちろん、それを上回る能力を備えています。

SS-OCTのためのADQ3デジタイザ・シリーズ

最大5 GSPSというサンプリング能力により、最も高速な波長掃引レーザーであっても高い忠実度で確実なサンプリングが可能となり、高周波な干渉周波数を捕捉して軸方向の解像度を維持できます。このように高いサンプリングレートと最大2.5 GHzという優れたアナログ・フロントエンド性能を組み合わせれば、開発者は妥協することなく、最新のSS-OCT光源の帯域幅を最大限に活用いただけます。

このデジタイザ・ソリューションに欠かせないのが、用途に特化した専用ファームウェアです。それがTeledyne SP Devicesの開発したファームウェアFWOCTであり、SS-OCT撮像システムにおいて、サンプリングしたkクロックをOCT信号とマッピングしたうえ、そのほかOCT画像を生成するためのすべての信号処理ステップを実行します。したがって、kクロックとOCT信号をデュアルチャネル・デジタイザに接続するだけです。デジタイザはkクロック信号をサンプリングし、それに続いて所定のOCTサンプリング・ポイントを特定する処理を行います。そうして特定したポイントについて、対応するOCT信号入力の値を高精度に決定するのです。これにはダイレクト・クロッキング方式と比較して多くの利点があります。その詳細につきましては、Digitizer for swept-source OCT (SS-OCT) - Teledyne SP Devicesをご覧ください。


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図2 デジタイザを統合した一般的なSS-OCTシステムのブロック図

ファームウェアを統合したことで、リサンプリング(k空間線形化)やデジタル・フィルタリング、場合によってはFFTの前処理といった主要な処理ステップをデジタイザ本体で行えるようになりました。これにも、以下のような複数の利点があります:

  • ホスト側のCPU/GPUの負荷が軽減され、システムアーキテクチャをよりシンプルにできる。
  • データをストリーミングする前に処理すれば、データ転送帯域幅に対する要件を低くできる。
  • 高速撮影システムに不可欠な決定論的なリアルタイム性能が実現する。
  • 厳格な制御によるハードウェアレベルの処理であるため、位相安定性が向上する。

FWOCTの主な特長

  • 幅広いレーザーに使える柔軟なkクロックサポート(4~2000 MHz)
  • MZI干渉計および低kクロック周波数(4~2000 MHzのkクロックに対応)をサポートするためのkクロック補間
  • プログラム・モードでは、サンプリングした任意のkクロック・ポイントをOCT信号にマッピング可能。たとえば、立ち上がりエッジ、立ち上がりと立ち下がりエッジ、あるいはk-クロック周期あたり複数のポイントによる補間設定など
  • OCT信号の最大帯域幅が広い(0~2000 MHz)
  • ユーザー設定可能なFIRフィルタで信号のノイズ低減
  • kクロックとOCT信号の経路間のタイミング調整
  • 自由度の高い出力形式(複素数、二乗振幅、対数)を備えたFFT
o FFTのサイズはAスキャンレートに応じて最大32kビンまで拡張可能
o GPUで実装したFFTよりも低遅延
  • バックグラウンドの除去
  • 分散の補正.


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図3 FWOCTによるオンボード・リアルタイムSS-OCT処理機能を備えたADQ35デジタイザ

これとは異なり、競合他社の多くのソリューションは、データ取得後のソフトウェア処理に大きく依存しているため、遅延の発生やシステムの複雑化などから、実現可能な画像処理速度が制限されることもあります。

しかし、最大5 GSPSの処理能力を持つハードウェアと専用のFWOCTファームウェアを組み合わせれば、データ収集とその処理を緊密に統合したプラットフォームが実現します。そのため、ADQ3シリーズは速度・感度・リアルタイム画像処理能力の限界を押し広げようと取り組むSS-OCTの開発者にとって、最も魅力的な選択肢として際立った存在となっているのです。


高速な波長走査型OCTを可能にする高度なデータ収集
表2 ADQ3シリーズのデジタイザの主な性能

ADQ32、ADQ33、ADQ35はPCIeインターフェースまたはUSB 3.2インターフェースのモデル(ADQ3-USB - Teledyne SP Devicesを参照ください)で利用いただけるほか、PXIeインターフェースのADQ36もご用意しています。Teledyne SP DevicesのSS-OCTソリューションについて詳しくは、Digitizer for swept-source OCT (SS-OCT) - Teledyne SP Devicesもご覧ください。

 
 
 
 

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